「うちも新卒採ることになったんだけど、受け入れってどうすればいいの?」
「活躍する新卒もいれば、期待していたのに全く立ち上がらない新卒もいて・・・何が課題なんだろう?」
僕は法人向けに人材育成支援をしている会社でコンサルタントとして15年間働いているんですが、この時期はお客様からこういうご質問をいただくことが多いです。(大企業だと10月くらいから、中堅・中小企業だと年明けくらいから本格的に検討し始めているな、という印象があります。もちろん例外はありますが。)
企業側の育成(成長)環境づくりは、言い換えると社員のキャリア開発支援でもあります。もちろん本人の自助努力もめちゃくちゃ重要なんですが、やはり育つ環境があってこそ成長速度や確度が高まるというのはこの15年間で痛いほど感じてきました。↓超ざっくりイメージでこんな感じです↓

より多くの方々に「人や組織が育つ環境の作り方」が広まることで、そこで働く人々のキャリア開発を少しでも進めたい!という願いも込めて、このブログでは転職の話だけでなく、僕の主戦場である人材育成についても話していこうと考えています。(年始に鎌倉の大仏を見た時にこの思いに至りました)
今回はその第一弾として、タイトルにある「新卒の受け入れ」について話していきます。
新卒の受け入れ準備ってやるべきことたくさんあるんですよ。配属を決めるとか、OJTトレーナーの選定や教育とか、導入研修のコンテンツづくりとか。
ただ、一度にあれもこれもと伝えるつもりはなく、今回書きたいのは、「まず」すべきことです。結論を先に言ってしまうと、下記3つのことは優先順位高く決めて(明確にして)おいてほしいです。
1.1年間(できれば3年間)の成長目標(言い換えると、本人たちへの期待を明確に文章化する)
2.成長目標の達成の仕方(例えば、どんな経験をどの程度積めば目標が達成できるか、など)
3.必要な周囲のサポート(例えば、業務支援のためのレクチャー、不安払拭のための精神支援、など)
結論を書いたので、あとは少し補足をしていきます。
1年間(できれば3年間)の成長目標(言い換えると、本人たちへの期待を明確に文章化する)
本当はファーストキャリアと呼ばれている3年間分はあるといいんですが、リソースその他いろんな問題があって作るのが難しいこともあると思うので、まずは1年間の成長目標を決めましょう。ちなみに、僕は名称にもこだわっていまして、本人に見せるときは「成長目標」、新卒の上司・先輩に見せるときは「育成目標」としています。微々たるものかもしれませんが、少しでも当事者意識を持ってもらえるように、自分が主語になるような名称にして伝えています。
では、成長目標をどのように設定していくのか、流れをご紹介します。
まずは一言タイトルを決めます。例えば、「⚫︎⚫︎の分野で一人前になる」とか「組織に欠かせない人材になる」とかです。一言タイトルを決める理由は、覚えるためです。本人も支援側も、人事も。覚えられない目標は形骸化します。この時点では抽象的で問題ないです。一言タイトルの時点でオリジナリティを出したい、という意向もあるかもしれませんが、その場合は言葉が一人歩きしないようにしっかりと補足ができるようにしておきましょう。例えば僕が以前ご支援させていただいたお客様は、新卒に「突き抜けろ!」という成長目標を立てました。「突き抜けるってどういうこと?」「なんで突き抜けることを期待されているの?」など、その定義や背景の補足などに時間を割いていました。導入研修だけでなく、9月や12月に行なったフォローアップ研修や、OJTトレーナーや上司向け研修のときにもしっかり説明したところ、本人も意欲的に取り組めたようですし、現場のトレーナーや上司も支援体制を整えやすかったようです。
次に、タイトルを実現したときに得ている知識やスキル、備えているマインド(心構え)を列挙します。例えば、「お客様の課題が新人・若手育成のケースでの要件定義ができる」とか「頼まれた仕事を納期までに完遂できる」とか、知識であれば資格取得はわかりやすいので「基本情報取得」とか「宅建取得」とかもありです。マインドは「主体性がある」「プロ意識」「お客様目線」「チーム目線」などです。この知識やスキル、マインドが明確になっていると、より「どのような経験を積ませればいいか?」「何をレクチャーすればいいか?」が明確になってきます。抽象的な一言タイトルだけでは、ほぼ間違いなく支援の抜け漏れが出てくるので、この列挙まで行なっていただくことをお勧めします。
欲を言えば、ここで挙げた知識、スキル、マインドをいつまでに身につけてもらうか?というマイルストーンまで決められれば最高です。が、「まず」すべきこととしては一旦このあたりでOKです。
ちなみに、目標が決まっていることで、本人にとって努力の方向性がわかりやすくなるだけでなく、上司や先輩が指導しやすいというメリットもあります。これ非常に大きいんですよ。
「ゆるい職場」という言葉を使い若手育成の問題提起をしたリクルートワークス研究所の古屋さんによれば、心理的安全性が高いがキャリア安全性の低い「ゆるい職場」にいる若手は辞めていく、なぜならば「優しくて雰囲気はいいが、自分はここにいても成長できず良いキャリアを築けないのではないか(キャリアの選択肢が狭まっていくのではないか)」と感じるから。
これまで新卒社員5,000名以上と育成支援を通じて関わってきましたが、古屋さんの主張には同意できる点が非常に多く、特に最近はこの傾向が強いと感じています。上司からすると「強く指摘をするとハラスメントと言われてしまうのではないか」「プレッシャーをかけてしまうと辞めてしまうのではないか」などの不安があり、ストレッチアサインメント(背伸びの仕事を任せること)ができていない、適時適切なフィードバックができていない、という現状があるようです。
しかし、双方が合意した目標があれば、その目標に対して届いている、届いていないなどを言いやすい。言い換えるとアサインメントやフィードバックの基準ができるので、上司先輩側の心理的ハードルが下がり、適切な育つ環境を作りやすいという効果が期待できます。
という意味でも、目標をより具体的に設定した上で、ステークホルダー間で認識合わせをしていただきたいです。
成長目標の達成の仕方(例えば、どんな経験をどの程度積めば目標が達成できるか、など)
成長目標を達成するために、いつ、どのような経験を積むのか、何を経てその知識を身につけるのか?をある程度設定します。成長目標が「どの山を登るのか?」だとすると、達成の仕方は、「どのようなルート、どのようなペースでどのように山を登るのか?」です。アクションプランを明確にするようなものです。例えば、「1年後の3月末までに既存のお客様に対する既存商品のリピート営業は一人でできるようになってもらいたい。そのために既存商品の概要と特徴を6月末までに覚え、商品紹介のロープレで部長からの合格を9月末までにもらい、12月末までに先輩が同行しながらメインスピーカーとして8割程度対応できるようになってもらう必要がある」とマイルストーンを設定したとします。これらを実現するために、「既存商品の概要勉強会と特徴勉強会1時間を一回ずつ、ペーパーテストを一回実施する」とか、「ロープレで部長からの合格をもらうために、先輩との30分ロープレを週1回欠かさず行なう」などを決め、チェックリストにします。チェックリストに書かれてあることを全部やりきれば目標が達成できるという状態を目指します。
ただし、例で挙げたレベルの具体性で1年分書いてしまうと、「言われたことさえやればいい」という受け身の若手社員を生んでしまうリスクがあるため、「チェックリストは9月末分までとし、10月〜3月の達成のためのアプローチは先輩に相談しながら自分で考える」という運用ルールにしてもいいです。
ちなみに僕の会社では、2024年卒は6月末までは具体的に決め、7〜9月、10〜12月で徐々に抽象度を上げ、1〜3月は完全に自分で考えるという運用にしました。2023年卒は9月末まで具体的に決めたんですが、2024年卒の方が未知の領域への耐性が高いと考え、運用を変えてみました。結果として、まだ道半ばではありますが、非常に良い立ち上がりをしてくれているので途中経過としては成功したと言えるんじゃないかな?と感じています。
必要な周囲のサポート(例えば、業務支援のためのレクチャー、不安払拭のための精神支援、など)
ここまでくれば、ある程度の道のりが見えてきているはずです。あとは、いつ、誰の、どんなサポートが必要か?を洗い出します。
例えば、6月末まではチェックリスト付きでわかりやすいが、7月以降は抽象度が上がるので、メンタルサポートが必要になりそうだ。7月からいきなり初対面でサポートはしにくいだろうから、6月くらいから他部署の先輩をメンターとしてつけようかな、というイメージです。
同様に、勉強会などはわかりやすいですが、見逃しがちなのが「一緒に業務に付き合いながら教える」先輩の工数見積もりです。例えば営業の場合は営業同行やロープレなどは代表的なもので、これが結構な工数負荷になり、蓋を開けてみたら「後輩指導で自分の成果が上がりません・・・」という状態になり得ます。これを事前準備段階で、どの程度の工数が追加で必要なのか、先輩社員の時間を空けるためにやめさせる業務や減らす活動は何かないかを洗い出しておきます。僕がこれまで支援させていただいたお客様の中には「先輩社員の時間も空けさせたいけど、そんな余裕はない。新人には自分で育ってもらわないといけない」とおっしゃる方がたくさんいました。半分事実なんですが、半分は備えが不足していただけです。先輩社員が悲鳴をあげた後に「なんとかしなきゃ」と動く管理職があまりにも多いです。業務が逼迫しているときに仕事を削るのは力業になることが多く、お客様や他部門含む誰かに皺寄せがいくケースがほとんどです。また、喫緊の「今週」や「今月」の仕事って削りにくいんですよね。
そんな管理職に「もしかして先輩社員や新卒の力量が足りなかったからこんな状況になったと思っていませんよね?」と問うと、図星だったか、目を逸らすんですよ。「なんで自分がこんな調整しないといけないんだ」と顔に書いてあるんです。組織の成果を出し続ける管理職は、達成のためのストーリーが見えていて、先読みができています。だからこそ、先手を打つことができ、慌てない。一方で、その日暮らしの積み上げ式の管理職は、行き当たりばったりになりがち。後手にまわり、周囲に迷惑をかけながらも結果も出ない、という感じです。
ある意味では、管理職にとって、ストーリー設計(あるいは先読み)の良いトレーニングになるのが、この新卒の受け入れ準備です。外部環境ではなく内部環境で完結できることが多いので、程度想像がつきやすいので。
目標やマイルストーンはバッチリ決めたけどうまくいかなかった・・・という会社はだいたいこの3つ目「必要な周囲のサポートの洗い出し」ができていなかったりします。
冒頭で、「企業の育成支援は社員にとってはキャリア開発支援だ」という話をしました。しっかりと計画しつつも柔軟性のある育つ環境で過ごすことにより、新卒社員は「計画の立て方」や「その中での不測の事態への対応の仕方」を学びます。これらにより、性格スキルの中で最も好業績に繋がるとされている「誠実性、計画性(言い換えると、やり抜く力)」が磨かれていくことに繋がります。
今回は、下記3点についてご紹介しました。
1.1年間(できれば3年間)の成長目標(言い換えると、本人たちへの期待を明確に文章化する)
2.成長目標の達成の仕方(例えば、どんな経験をどの程度積めば目標が達成できるか、など)
3.必要な周囲のサポート(例えば、業務支援のためのレクチャー、不安払拭のための精神支援、など)
今回の話が、みなさんの会社の新卒社員育成のなんらかのお役に立てていれば嬉しいです。
最後までご覧いただきありがとうございました。
それでは、また次の投稿で。